誰が言うか、何を言うか

 義母が大学生になった息子のためにと新聞の切り抜きをくれた。見てみると池上彰氏の話で、「疑問を持つことから始めよ」と書いてある。内容は私も授業で話す内容と一緒だ。高校までは一つの正解がある中での勉強だったので(私はそれを「作業」と読んでいるけれど)、大学生になって、正解のない世界に入ってくる。正解がないと言うことは学生に不安感を与えるが、世の中には正解のないことの方が多い。それどころか、正解と思っていたことが正解ではなかったことも多いのだ。

 例えば、歴史だって、昔は「いい国作ろう鎌倉幕府、1192」が正解と思っていたが、最近はそうではないらしい。足利尊氏肖像画と思っていたものが、実は誰だかわからない武将の肖像画というのが最近の話である。つまり、「こうだ」と思い込んでいた事実や考え方も本当はそうではないのかもしれない。だから、なんでも鵜呑みにせずに「本当にそうなんだろうか?」という疑問を持つことが大学生には大切なのだ。そうした疑問から、次の発見や進展がある。過去の知識の蓄積をそのまま受け入れるだけでは次のイノベーションはない。考えてみれば社会の企業活動だって、正解はないから、それを模索しながら、商品開発や顧客開拓をするわけだ。どんなものを作って、誰に売ればいいかが最初からわかれば苦労はないはずだ。

 さて、こんな話、私が言っても聞いてくれるのは、私の授業で居眠りをせず、密かにスマホでラインをせず、このおっさん、なんだ?と思う学生くらいなものだ(教室内に一人か、二人か?あるいはゼロか?)。ところが池上氏のような有名人が発すれば、ありがたいお言葉となる。人は、誰がいうかというフィルターでもって話の内容を判断しているのだと思う。私も本を書いて、売れるようになれば、一言二言で人の心をつかめるようになるのだろうか?(笑)