私の読書感想文

 夏休み最後の日、8月31日と言えば、昔から夏休みの宿題に追われる人決まっている。中でも嫌だったのは、読書感想文だった。今でも学生に聞くと嫌だっと殆どの学生が答える。

 読書感想文が嫌われるのは、本を読まなければならないこともあるが、何をどのように書くのかがわからないということが大きいと思う。書評を書くわけでもなく、ただ、面白かったというのが感想なら、何をかけというのだろうか。学生に「原稿用紙の4枚半にストーリーを書いて、最後の1行で「面白かった」って簡単じゃないの?と冗談めかして言うと、多くの学生が頷いたりするのだ。

 さて、では、読書感想文とは何を書くべきなのだろうか。今の私にもわからないが、先ほど、私の読書が終わったので、感想文を書くことにしよう。

 

—-ここから

Replayを読んで

 この作品はKen Grimwoodによって書かれ、1987年に出版されたものである。ペーパーバックで366頁という、ボリュームのある小説である。実は29年前にこの作品の翻訳を読んでいたが、今回は、英語の原作を読み通すことができた。

 この小説は42歳のラジオ局勤務のサラリーマン、Jeffが死んだ後に、何度も生き返えるのだが、意識だけはそのまま継続して、その度に異なった人生を歩み、経験を積み重ねていくが、かなら最初に死んだ日時にまた死ぬというストーリーだ。作品では人生にとって何が重要なのか、歴史の中における個人の役割と無力感、あるいはメディアの力や政治的仕組みの不条理、さらには芸術が個人にもたらす影響などが描かれている。主人公は3回目の人生の中で、同じように生き返り(replay)を経験している女性、Pamelaと出会い、その後の生き返りの度に彼女との絆を深めていく。その中で、家族愛や、いくら愛しても必ず別れることの無常観も描かれていると言えるだろう。

 この小説は我々の願望を小説という形で昇華しているともいえる。誰にでも後悔があり、あの日あの時、ああしていれば、よかったのにと思うことがあるはずだ。この作品では、それが描かれている。だから、違った選択肢をとり、時には大金持ちになり、時には、温かい家庭をもつ。あるいは、気ままな放蕩を繰り返す。だが、かならず死に、また生き返ることで、現世でのさまざまなこだわりの虚しさを読者に痛感させることにもなる。生き返ることができ、やり直すことができるのに、どの選択肢を選んでも正解はないのだと作者は言いたいのではないだろうか。

 この作品の中で面白かったのは、4回目の生き返りの中で、彼らは別にも生き返りをしているものを一人探し出す。その人物は、この生き返りは異星人が楽しむために、我々を選び出し、もがき苦しむのを楽しんでいるのだ、という場面がある。このもがき苦しみを楽しんでいる異星人はまさに、この小説を読む読者そのものだ。異星人という表現を使っているが、人間には他人がもがき苦しむところをどこか楽しむ残酷なところがあるという著者のメッセージがここには秘められていると言えよう。

 作品の生き返りは繰り返すぐごとに生き返るタイミングが遅くなり、それだけ生きていく時間が短くなっていく。最後には死ぬ数分前の状態に生き返り、また死に、また生き返るを繰り返した後、最後には、最初に死んだ日時に死なず、死んだ後の時間を生き直すということで作品は終わり、その後は、今までの生き返りにはない時間であり、この先がどうなるかがわからない。ここには、人生というのは、展開や結末がわかっていることに対しては、心動かされない。わからないことだからこそ、本当の感動があり、また、無限の生き返りという不死には、有限の美しさがないという批判が込められているのかもしれない。人間は不死や長寿を願うのだが、実は有限であり、何事も終わりがあるからこそ、輝く時間があり、価値も生まれるということを、最後に我々読者に認識させてくれる。SFファンタジーとして、面白く、まさに夢中になれる作品である。この作品は日本でもドラマの原作として、何度も使われている。

 さて、自分がこの作品の主人公のように何度も人生をやり直せるとしたら、どうだろうか。自分だけが知っている学問的な知識をひっさげて、若手の学者として世界的に羽ばたくか。あるいはバブル契機とその後の不況を利用して、大金持ちになるか。いや、結局は、今ままでの選択と、今の人生が結局は自分の回答なんだろうと思う。そして、この人生の中で出会い、別れた人との縁こそが自分を作ってくれるのだろうと痛感する。

 最後に、英語についてである。この作品の中の英語は難しくはなく、スムーズに目の中に入ってくる。こねくり回した表現もなく、英検準1級の語彙力があれば十分に楽しめることだろう。一つ面白かったのは、doを「殺す」の意味で使っていた箇所があったことだ。I do her with a knife.で彼女をナイフで殺す。のように使われていたのだが、コンテクストからは「殺す」としか捉えられないので、改めて、辞書を確認すると、たしかにdoには「殺す」という意味の用法がある。まあ、広く「やる」の意味だから、ある意味、どんな動詞の意味でも担えるのだろうが、改めて、勉強する機会となった。

 残念ながら、この小説のペーパーバックもkindle版もない。古本屋で探すしかないだろうが、もしも、自分の人生をやり直したいとおものであれば、この小説で擬似体験するのはいかがだろうか。

 

—-ここまで

 

さて、いかがだろうか、上記の感想文で1900字くらいだから、原稿用紙5枚の範囲内だ(笑)。感想文の書き方がどういうものか、私自身もわからないが、次のようなフレームワークで描き進めるのはどうだろう。

 

1.その作品の概要と選んだ理由。

2.大まかなストーリー

3.その作品の伝えたい内容が何かという自分なりの解釈

4.作品の中で印象深い場面と、その理由

5.主人公と自分の比較、あるいは自分だったらどうするか、またそれはどうしてかという理由

6.印象深い表現と、その理由

7.その他、気づいたこと

8.その作品には読む価値他があったかどうかという評価

 

こんな順番で書けば、あっという間に原稿用紙が埋まると思うのだが、どうだろう?