虫づくし

 数日前に劇作家・作家の別役実氏の死去のニュースが出ていた。あまり多くの人に知られた人ではないかもしれないけれど、私の記憶の中には強烈な印象がある。
 中学生の時だったと思う。友人がおもしろラジオ番組があると紹介してくれた。常田不二男さんが朗読する番組で、「虫づくし」というのがあると。1・2週間だけだったのだが、別役実氏の『虫づくし』の朗読であった。
 この虫づくしは、ある意味、今の批判的テキスト分析の種を私に蒔いてくれたのかもしれない。「はえ」の項では特にその色合いが強い。この虫づくしは、様々な虫に関する解釈を独特な感性から描いたもので、パロディーとしても、コメディーとしても、あるいは、人間を批判した哲学書とも解釈できる。他にも、『鳥づくし』、『道具づくし』、という連作があり、すべて購入したが、やはり『虫づくし』が一番強烈だ。
 Youtubeにはこのラジオ番組の録音がいくつか登録されている。あの、独特な常田さんの声から不思議なテクストを耳にすると、どこか別世界に連れて行かれような錯覚を覚えるのは、私だけだろうか?