耳鳴り

 子供の頃、夜遅く目が覚めた時、静けさの中、急にキーンと鳴るのが聞こえた。父母の布団に入り、変な音が聞こえると言ったものの、疲れ果てた両親は相手にしてくれなかった。以来、深夜の静けさの音というものは、このキーンというものなのだと、それから50年も信じてきた。

 今でも書斎で静かな中にいるとキーンという音が聞こえてくる。そんなものか時に求めなかったが、ふと、これは耳鳴りというものではないだろうかと今更ながらに認識した(苦笑)。耳鳴りの原因も治療もないようで、テレビでは以前は「気にしない」ことしかないとのことだった。ひどい人は眠れないらしいが、私の場合は疲れとアルコールのおかげで眠ることに支障はない。ただ、気にし始めると確かに音が止まない。何かしらの活動をしている間は気にならないが、今、こうして静かな朝に文字を書きながらも、耳は鳴る。

 子供の頃からの症状を今になって認識するという、なんとものどかな話だが、何もごとも認識するところに実在があるのであって、認識しなければそれは存在しない。考えてみれば「耳鳴り」などとラベル付けをして認識してしまうと病気とか問題と考えてしまってネガティブになる。「知らぬが仏」と言うが、知らなければいいことが人生の中では色々とあるなと、改めて認識してしまったのである(笑)。