このところ、自分に残された時間が限られていて、やり残したことが多いということに気がつき始めた。若い時に購入して読んでいなかった本に自然に手が行くのもその一つかも知れない。大学3年の時の授業でMacbethの原著を読んだ。そこでシェークスピアの魅力を知り、以来、ちょくちょくと翻訳を読んでいる。
授業で一生懸命読むきっかけは、担当の助教授が美人だったからだ(苦笑)。とても品格があり、上品な話し方に魅了された。実は大学1年の時の講読でその先生に魅了されて、その後、先生の専門のシェークスピアの講読を履修したのだ。
シェークスピアの作品は16世紀後半に書かれたもので、単語の意味も今とは異なるものも多い。そしてそもそもこれは演劇の台本であり、韻を踏む必要もあって、文の構成も普通の英語力では歯が立たない。必死に日本語訳と見比べて授業の臨んだ。
この時、1984年。運が良く大学から語学派遣学生に選ばれて、イギリスに行き、1ヶ月の語学研修を受けた。すべて大学の負担で、毎週大学から生活費が支給された。今ではこの制度もなくなり、古き良き時代の思い出だ。その時にふと立ち寄った本屋でシェークスピアの作品を現代英語に対訳している本があったので、購入した。当時は授業で使うところだけを読んで意味をとっていた。
この歳になり、少しは英語がわかるようになって、対訳の現代英語が自然に入ってきて、英語のまま自然とMacbethを楽しむことができた。38年かかって、読了したことになる。
左側の原著のところには大学時代に読んだ時のメモ書きがあり、当時の自分を振り返るきっかけになった。写真の左側のMacbethの一番有名なセリフだ。
To-morrow, and to-morrow and to-morrow, 明日、明日、明日は
Creeps in this petty pace from day to day, ゆっくりと毎日忍び寄る
To the last syllable of recorded time;人生の最後の瞬間へと。
And all our yesterdays have lightened fools 全ての昨日は愚か者に照らす
The way to the dusty death.埃のような死への道を。
Out, out, brief candle. 消えろ、消えろ、短い蝋燭。
Life's but a walking shadow, a poor player 人生は歩く陰だ、下手くそな役者
That struts and frets his hour upon the stage, 気取って歩き、舞台での出番に苛立ち、
And then is heard no more; そして出番が終われば、何も聞こえない。
it is a tale told by an idiot, full of sound and furry, それは愚か者の語る物語、騒々しいお喋りで満ち溢れ
Signifying nothing. 大事なものなど何もない
自分の野望を抱き、王を裏切り殺し、念願の王の座についたものの、妻は狂い死に、今や自分の命も風前の灯。マクベスの独白には、生きている間に、あれこれ大騒ぎして、欲望にまみれ、欲しいものを手に入れたところで、結局は何もかも残らず虚しいだけ、という意味が解釈できる。大学生ではそんなことまでは解釈できないけれど、50代も最後の年を迎えようとしていると、この独白がすごく心の染み入るのである。