忘れられてしまう昔の物

 いつも赤ペンとして使っているダンヒルの万年筆のインクコンバーターが壊れたらしく、インク漏れを引き起こしていた。学生のレポートから小テストの採点に活躍してくれているペンで、1984年にイギリスに研修に行ったときに買った物だ。もう34年も前の物になる。さすがにそれだけの年数がたてばメカニカルなコンバーターの寿命が来るのもむべなるかな。
 代替えのコンバーターを求めて栄の丸善に行く。ところが、ダンヒルコンバーターはないとのこと。似たような物がないかと尋ねたら、どうやら、ペリカンの物が合うだろうとのことで購入してきた。
 しかし…である。実は微妙にサイズが合わなかった。どうしても引っかかりが出てしまって、インク補充の時に本体からカバーを外したときに、コンバーターがカバーにひっついてしまい、インク補充ができないのだ。困り果てて、ネットで調べてみたが、どうもこのコンバーターはもうないらしい。さすがに30数年前に売っていた物の消耗品はないか…。昔の物は忘れ去られていくのが慣わしとはいえ、さすがに寂しい。いや、寂しがっているよりも、このペンが使えなくなるのは痛い。どうにかできないか。
 実はもう一つダンヒルの万年筆がある。これは16歳で初めて、アメリカに一人旅をしたときに買った物だ。人生の重大事に関わる物はすべてこれで記入した。履歴書も婚姻届も。それだけに日頃は使わない。ふと、この万年筆のコンバーターはへたっていないだろうと思って、つけてみたら、うまくいく。だが、そうなるとこの万年筆が使えない。ダメ元で今日購入したペリカンコンバーターをつけたら、ばっちり。こいつのボディの方が若干太めなのが幸いしたようだ。購入してから、39年になるのだから、考えたらかなり年代物といえる。
 これでなんとか両方の万年筆が使えるようになったのだが、もう両方ともアンティークの扱いを受けるようなもの。今度消耗品を見つけようと思っても、なかなか難しいだろう。今の消費社会なら10年前の製品の部品さえ残っているのが珍しい。どんどん昔のものが忘れれていく寂しさは、きっと、自分も昔の人間として、忘れ去られていく怖さを感じているからなのかもしれない。

 次にコンバーターが壊れるときには、私がもう仕事を引退しているかもしれない(笑)。

f:id:msasaki1963:20180710145023j:image

左が赤ペン用で右のペンからコンバーターを移植。

右がペリカンコンバーターに入れ替えた方。