自動翻訳機では伝えられないこと

 最近、POKETALKという自動翻訳機が人気らしい。ショッピングサイトでも、メディアのショッピングコーナーでも扱われている。要するにネットのAIを使って、音声認識とその変換をしてくれる。スマホのアプリでも同じようなことはできるので、それが統合した形になっているのだろう。

 自動翻訳機はシチュエーションが決まったところなら便利だと思う。買い物のシーンなら、やりとりする情報は限定している。値段の問い合わせ、値引きの可否、サイズや色の違うものがあるかの質問とその回答、さらにカードが使えるか、電子マネーが使えるか、くらいだ。こういう決まった状況なら選択される表現も絞れるので、AIの得意なところだろう。

 ところが、難しいのは表面上の翻訳ができたとしても、それが必ずしも本当の意味をなさないことがある。例えば、レレレのおじさんのように「おでかけですか?」を英語に訳したて、Are you going out? とか、Where are you going?と訳すことはできるが、その表現の機能は日本語と英語では異なる。日本語の「おでかけですか?」は挨拶のバリエーションで、本当に出かけるかどうか、出かける場所を問いただすわけではない。逆に英語のI love youをいつでも「愛している」とするのはどうだろうか?アーティストが最後にファンにI love youと叫ぶことをよく見るが、これは感謝の「ありがとう」の意味と解釈するのが当然だ。

 他にも、「善処します」をWe'll do out best.と直してしまうと後が大変だ。日本語の「善処します」は「あなたの話を承った」という意味であって、結果を保証するものではない。だが、英語のWe'll do our bestは「何かしらの結果を出す」という約束になってしまうのだ。

 言語とはツールであり、表現を変換すればそれで言葉の壁を超えられると考えている人は多い。だが、言葉の本当の意味は文化的な価値観を伴うものであり、それは言外の約束事に縛られている。それを考慮しないと本当の意味の翻訳ができない。今のところ、それは外国語に長けた人間の方がいいのだが、はて、AIが進むと、それを凌駕してしまう日も来るのだろうか?