源氏物語

 源氏物語を知らない日本人はおそらくほとんどいないと思う。しかし、実際にストーリーを知っているとか、読んだという人は稀かもしれない。私は源氏物語の英訳を研究対象にもしているので、初めの桐壺は何度も読んだし、英語訳を6種類読んだのだが、54帖全てを読んでいない。林望氏の「謹訳 源氏物語」を第二巻まで読み進んだところで止まっているのだ。

 そんな時に阿刀田高氏の「源氏物語を知っていますか」という本を手にした。同氏の「。。。を知っていますか」シリーズは、これまでにもギリシャ神話について、旧約聖書について、新約聖書について、コーランについて、谷崎潤一郎についてと読んでいたので、すぐに読み始めてしまった。読み進めていくうちに、光源氏が今に生きていていたら、とんでもない批判にさらされていたんだろうなと苦笑しながら読んでしまった。

 ストーリーは帝の息子である光源氏が多くの女性と関係を結ぶ話である。自分の母親の面影を追う年上の藤壺から、子供の時から引き取って自分の子供のように育てた挙句に妻にしてしまった紫の上がその代表だが、他にも多々。平安時代の貴族社会における「結婚」という制度と子供の致死率が高く、子孫を残すために当たり前だと思われていた複数の女性との関係が理解できないと、わからない世界だと思う。この話を今の倫理観に当てはめていけば、SNSの大炎上どころの騒ぎではないし、ワイドショーネタにすれば1年は軽く持つんじゃないかと思えるほどの人数の女性が出てくる。捉えようによってはアダルト小説ともいえなくはない。教科書に載っていいんだろうか?(苦笑)

 しかし、それが長年読み継がれるのは、やはりそこに時代を超えた人間の苦労、季節の移り変わり共にある自然、そして感情を和歌で伝える優美さが一種の美として映るからではないだろうか。男女の心の機微は恋心、嫉妬、寂しさとして、変わらない。光源氏の過ちは、最後には自分への仕打ちして帰ってくる。そんな人生の教訓も込められている。
 最近、林望氏の謹訳版がkindleで入手できるようになっている。これを機に、皆さんも源氏物語の世界に少し触れてみてはどうだろうか。