38年かかって読み終わる

 D. Crystalという言語学者の本はたくさんあって、軽妙でユーモアもある書き方がきっと多くの一般読者もいるはずだ。元々音声学や音韻論が専門のようだが、彼の著作は英語一般に関するものが多い。そんな彼の代表作がIntroduction to Linguisiticsだと思う。もう40年くらい前にペンギンからペーパーバックで出版されたもので、今は買えない。

 この本を手にしたのは20歳くらいの時だった。辞書を片手に、赤線を引っ張りながら四苦八苦しながら読んでいた。ある授業前にページをめくっていたら、担当の先生に「いい本を読んでいますね」と言われたのを今でも思い出す。

 さて、そのLinguisticsだが、恥ずかしいことに読了できていなかった。前半の1/3で止まっていて、以来、そのまま放置していたのである。何度か再チャレンジしてはやめて、と繰り返していたのだが、何を思ったのか、つい先日、もう一度読もうと思い手にした。紙はすでにボロボロで、ページを捲るたびに剥がれてしまう。大切に読み進めていくと、当時は理解できなかったことが今ではスッと頭に入っていく。あれほどセンテンスごとに単語を辞書で調べていたのに、今はその手間を惜しむ(笑)。まあ、辞書を逐一調べなくてもおおよその単語が理解できるようになったからであろう。
 その本をようやく先日読了した。温故知新というが、今読んでみると新しい発見がいくつもあったし、再確認することができた事項もあった。今の若い人に読めと言えるものではないが、それでも、自分の理論の源流はどこにあるのかとわかることもあり、包括的な理解をするには入門書としては素晴らしいと思う。

 時間はかかっても、何かを成し遂げるというのはやはり達成感があるものだと、しみじみ感じた経験であった。