本名信行先生を想う

 年末になると、喪中であるため年賀状が出せないという書状が届く。その頃一枚のハガキが届いた。送り主は青山学院大学名誉教授の本名信行先生の奥様だった。そこには、本名先生がこの秋に逝去されたことが記されていた。本名先生との突然の別れ、なんとも言えない無力感が襲ってきた。

 本名先生との出会いは、学部生の時。韓国で開催される国際学会に申し込みをした時、その事務連絡をくれたのが本名先生だった。当時は金城学院大学教授であった。その後、本格的に本名先生と親しくお話をさせていただいたのが、大学院生の時。学会で初めてお目にかかった。本名先生は日本の社会言語学の先駆者の一人で、その美しい英語の発音に魅了されるばかりであった。直接本名先生の講義を受けることはなかったが、何度も学会でお目にかかり、次第に親しくしていただくようになった。

 甲府の山梨英和短期大学に勤め始めた頃、大学の講演会に本名先生をお招きした。快くお引き受けくださり、それがご縁で、翻訳プロジェクトの一員に加えていただいた。それが『社会言語学入門』の出版につながるのだが、割り当てられたのはピジンクリオールの箇所と、コードのところで、当時の私は諸学者並みの知識であり、今振り返ると拙い翻訳もある。

 それから本名先生とは毎年の年賀状、学会への特別講演への招聘、メールでのやりとりなど親しくさせていただき、時にはご著書を贈呈していただいた。今年、夏だったろうか、本名先生から最新のご著書『多文化共生時代に学ぶ英語』(玉川大学出版会)をいただいた。これまでに執筆された原稿をまとめ、さらに加筆したものらしい。いただいてから、本棚に入れたままだったが、この年末に読み続けている。本名先生の「英語は各地域でローカライズされ、道具として洗練されていく。ネイティブのように英語を使うことが国際的なことではない」というお考えが貫かれており、改めて教えられる。朝飯前をIt's a piece of cakeとネイティブのように言わなくて、It's before breakfast.だっていいのだと。世界各地の英語、World Englishesという考え方を広められた世界的な学者の一人の言葉は重い。

 本名先生の教えの数々、言葉の数々が耳に残る。そして、その考えを今度は若い世代に伝えることが私の務めであり、また本名先生へのご恩に対しての答えとなるだろう。

 

 本名先生、本当にありがとうございました。心安らかにお眠りください。

 

合掌